概要
本記事は、生成AIアプリケーションにおけるRAGの基盤技術であるコサイン類似度の概念、計算式、Pythonによる視覚化、および「次元の呪い」といった注意点を網羅的に解説します。
詳細内容
生成AIを活用したアプリケーション開発において、組織固有の情報をLLMに組み込むRAG(Retrieval-Augmented Generation)は不可欠な技術となっています。多くの開発者がRAGを検討する中で、その中核を担うベクトル類似度検索、特にコサイン類似度について、その本質的な理解が曖昧なケースも少なくありません。本記事は、コサイン類似度の概念を改めて整理し、ウェブアプリケーションエンジニアがRAGを効果的に構築・運用するための深い洞察を提供します。
RAGが解決するのは、LLMが学習データにない独自の知識を必要とする課題です。従来のキーワード検索では、テキストの意味的な関連性を捉えきれないため、テキストの意味をベクトルとして表現し、その類似度を計算する「ベクトル検索」が採用されます。このアプローチにより、質問に対してより関連性の高い情報を外部データベースから取得し、LLMのプロンプトに含めることが可能になります。
コサイン類似度は、2つのベクトルの「角度の近さ」を-1から1の範囲で数値化します。1に近いほどベクトルが同じ方向を向いている(高い類似性)、0に近いほど直交している(無関係)、-1に近いほど逆方向を向いている(正反対)と判断されます。記事ではこの数学的な定義に加え、Pythonとmatplotlibを用いた2次元ベクトルでの視覚化コード例を挙げ、直感的な理解を促しています。`sklearn.metrics.pairwise.cosine_similarity`関数の存在にも触れており、実際の開発で利用する際のヒントも含まれます。
ただし、重要な注意点として「次元の呪い」に言及しています。高次元空間ではベクトルが互いに直交に近くなる傾向があり、コサイン類似度が0付近に集中し、類似度計算の精度が低下する問題です。これに対し、PCAやt-SNEによる次元削減、あるいは特徴選択が有効な対策として提示されています。
ウェブアプリケーションエンジニアにとって、このコサイン類似度の深い理解は、単にRAGを実装するだけでなく、その性能を最大限に引き出し、運用上の課題(特に大規模な埋め込みモデル使用時の検索精度劣化)に対応するために極めて重要です。ベクトル空間の特性と限界を把握することで、より堅牢で効率的な生成AIアプリケーションを設計できるようになります。